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村上春樹さん著「走ることについて語るときに僕の語ること」
小説家・翻訳家である村上春樹さんの軽妙な語り口が冴える、ランニングだけに関する全9章のエッセイ。2005年~2006年にかけて、日本、アメリカ(ニューヨーク、ケンブリッジ、ハワイ)、アテネを走る「ランナー・村上春樹さん」の姿から、ランニングを通じて磨かれた人生観が見える。
と同時に、村上春樹さんが体現する「性格(ネイチャー)」に従って生きる姿は、働く上での大切なこと、つまり「周りからどう見られようが、自分は自分」として働くことを強く静かに後押ししてくれる本。
Podcast「アワノトモキの読書の時間」の第7回で扱った内容を一部変更し、3回に渡って掲載します。
村上春樹さんへの印象(読む前)
約20年前の大学・大学院生時代に、村上春樹さんの小説を何冊も読みました。「風の歌を聴け」、「ダンス・ダンス・ダンス」、「ねじまき鳥クロニクル」、「国境の南、太陽の西」、「羊をめぐる冒険」、「ノルウェイの森」etc・・・
ただ、正直なところ、「売れていてオシャレそうだから」という、ファッションとして手に取った部分が大きく、村上春樹さんの世界観を理解したり、ハルキストとして傾倒したりということは全くなく
「すごい話題になってるけど、なんかさ、回りくどい表現が多い本だなー、でも売れてるんだよね」
というのが一連の小説を読んだ感想でした。要は、「面白いと感じられなかったけれど、若者として読んだと言える方ががかっこいい」、というところでしょうか。なので、手元に残っている小説はなく、内容も題名と表紙くらいしか覚えていません。
・・・!!村上春樹さんのエッセイって最高!(読んだ後)
「どうせ気障(キザ)な言い回しで、走ることを語るんでしょ?」と雑な感情で読みだした私。
ところが!ところが、このエッセイを読みだすと、印象は北京冬季オリンピック・スノーボード金メダルの平野歩夢選手の「トリプルコーク1440(3回転、フォーティーン・フォーティー)」さながらに、劇的に、そして鮮やかに変化しました。ただただ、驚嘆。
驚嘆に続く感情は、「20年間も村上春樹さんに対して偏見を持ってしまっていたこと」への罪悪感(←村上春樹さん、ハルキストの皆さん、ごめんなさい)と、「村上春樹さんはエッセイを読むべきだった・・・」という後悔の念でした。
村上春樹さん、ごめんなさい・・・私の浅慮を心よりお詫びいたします。
空虚に過ぎ去った20年という時間を巻き直したい。そして私は42歳の秋に”にわかハルキスト”になったのでした。
3つのキーワード フィジカル 職業小説家 ネイチャー
さて、具体的にどういった魅力がこの本に詰まっているかは、次回Vol.2で語っていきたいと思いますが、本書を語る上で欠かせない(と僕が考える)キーワードを3つ、挙げておきます。
- フィジカル
- 職業小説家
- ネイチャー(性格)
ハルキストの方々には大変申し訳なく、お目汚しでしかないと思いますが、いわば”村上春樹アレルギー”、”反ハルキスト”、「ノーベル文学賞?取れたらいいですね」と冷めた目で毎年のニュースを見ていた私に似た心境の人も、世の中には幾分かはいらっしゃると思うので、そういった方々に「村上春樹さんの小説は苦手でも、エッセイは読みましょう」と声高らかに伝えていきたいと思います。
村上春樹さんのエッセイは、読むべし!人生観が変わります!(大袈裟か)
(こぼれ話 元ランナーとしてのプライドに火がつく)
村上春樹さんは、偉大な小説家・翻訳家であると同時に、「ランナー・村上春樹」としても偉大でした。50代で毎月200㎞を走破。マラソンも毎年走り、サブ3.5(3時間半以内で完走)
何を隠そう、私も中学1年から大学2年(13歳~20歳)までは、陸上競技選手(中距離・800m等)としてごく真面目に、というか、走ることだけをアイデンティティとしてやっていました。一応のこと、中学時代は駅伝で全国大会で2度走ったことも。
筑波大学の陸上競技部の高いレベルに全くついていけずに走ることを辞めたのですが、現役引退して3か月後のホノルルマラソンを個人的な「引退レース」と位置づけ、手元の時計で2時間57分のサブスリー(非公式)で完走。いい区切りになりました。
時は流れて2019年。フリーランスとしての仕事はリモートワークでも対応可能で通勤が大幅減。さらに新型コロナウィルスの広がりとともに、100%リモートワークへ。
それはつまり運動量の低下とストレスの増大による食欲増加を引き起こし、15kg増量。人生最大の78kgまで成長しました。身長171㎝なので、適正は60~65kgとして、かなりの肥満。家族にも、「お腹乗ってるよ」とか、当時4歳の次男には「パパのおなか、プニョプニョできもちいいい」とか言われ、危機感を持って走り出したのが、2020年2月。
とはいうものの、約15年ぶりに走るため、月に50~100㎞くらい走って満足(当然体重はさほど減らず)。ところが、村上春樹さんのこの本を読み、己のランナーとしての意識の低さ、習慣化の弱さを心から恥じ、「ランナー・村上春樹」には、元陸上競技のアスリートとして負けられないと、月間150~200㎞を走ろうと決意したのが2021年10月。そこからは、怪我をして走れない月を除き、平均150㎞は何とか超えています。(↓証拠画像 2021年11月走行距離 206.9㎞)
Podcast「アワノトモキの読書の時間」ep07-1「走ることについて語るときに僕の語ること」(村上春樹さん)はこちら