夕暮れ。窓から差すやわらかな光のなかで、手にした一冊の本。ページをめくるたびに、世界がほんの少しだけ静かになっていく。そんな時間が、私は好きだ。
このエピソードでは、モモ(ミヒャエル・エンデ/訳:大島かおり/岩波書店)とじっくり向き合った。
「働く人と組織の関係性の編み直し」をテーマに、人生と仕事を少しだけ軽くする読書の時間をお届けします。
本書のあらましと、その静かな魔力
「時間どろぼう」と呼ばれる男たちが、人々の“時間”を少しずつ、そっと盗んでいく
――そんな不思議な出来事が町で起こりはじめる。
しかし、その町にはひとり、誰の評価も求めず、ただ人の話に耳を傾ける少女がいた。彼女の名はモモ。
モモが“聞く”という行為を続けることで、人々の中に埋もれていた言葉や思い出が蘇り、
傷ついた関係がゆっくりと修復されていく。
今につながる、時間と「聞く力」の意味
エンデが描いたのは、ただのファンタジーではない。
効率化、生産性、成果
――そんな価値が前景にある現代だからこそ、私たちは何かを失っているのではないか。
時間に追われ、会話に余裕がなく、誰かの声にゆっくり耳を澄ますことすら忘れてしまっている。
モモは、きらびやかな才能や派手な言葉を持たずとも、
ただ“聞く”ことで、人の時間を、おそらく自分の時間すら、取り戻していた。
その行為は、作劇的でも技巧的でもなく、
むしろ「普段の暮らし」にそっと溶け込むような、素朴で美しい営み。
耳を澄ますことで、生まれる余白とつながり
本書を通じて私たちは思い出す
――時間とは「使うもの」ではなく、「還るもの」なのかもしれない、と。
そして、「話す力」や「伝える力」ではなく、
「聞く力」にこそ、関係を再生させる静かな強さがある。
これからも、この「聞く」という行為について、
エピソードを重ねながら探索していきたい。
次回は、モモが開いてくれたこの扉をもう少しだけ広げ、
私たちの経験や現代のコミュニケーションの文脈と絡めて、
お話を続ける予定です。
書籍情報
モモ / ミヒャエル・エンデ 著
訳:大島かおり
出版社:岩波書店
Podcast「アワノトモキの読書の時間」
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